
前回の記事では、草食動物は何から筋肉を作っているか という話をしました。
タンパク質の少ない植物だけを食べていても草食動物がたんぱく質不足にならないのは、主に微生物の働きによるものでした。
人間にもそんな仕組みがあればとても便利だなあと思いますが、実は、これとほぼ同じことを実現している人たちがいることが、各国の調査でわかっています!
インドネシアの東に位置するパプアニューギニアの人々は、エネルギー摂取量の80%をサツマイモから取っていて、通常の基準で考えれば大幅なたんぱく質不足になりますが、実際には筋肉が発達したたくましい身体つきをしています。
これはとても不思議です。当然多くの人が疑問を持ち、様々な研究がなされた結果、いろいろなことがわかっています。日本でも東京大学や理化学研究所が研究したようです。
東京大学の研究:パプアニューギニア高地人がサツマイモを食べて筋肉質になるのはなぜか[概要]
東京大学の研究:パプアニューギニア高地人がサツマイモを食べて筋肉質になるのはなぜか[詳細]
要点を以下抜粋してみます。
東京大学の研究
パプアニューギニア高地の人びとの腸内細菌は窒素固定する能力を有することがわかった。ただし、固定された窒素が体タンパクの合成に本当に使われているかどうかはまだわからない。
3.パプアニューギニア高地における低タンパク適応研究:
パプアニューギニア高地にはエネルギー摂取量の80%近くをサツマイモに依存する人々が生活している。彼らのタンパク摂取量は現代栄養学の定める基準を下回るにもかかわらず、成人男性は巨大な筋肉を発達されている。この理由を解明するために多数の栄養学研究が実施され、パプアニューギニア高地人は、尿素の再利用効率が高いこと、不可避窒素損失量が低いこと、そして腸内細菌フローラが先進国集団と全く異なることが報告されている。
4.人間の腸内に窒素固定菌が生息しているとの報告:
A属のなかには窒素固定能のある細菌があり、それは人間の腸内にも生息していることが報告されている。
以上の知見から、人間の腸内に窒素固定細菌が生息し、何らかの栄養学的な機能をもっているという仮説を立てた場合、窒素固定菌は腸内のような嫌気的条件下では窒素固定のために多量のATPを必要とするので、外部からのATPの供給源が不可欠であるいう問題を解決しなければならない。
5.人間の腸内にATPを分泌する細菌が存在しているという報告:
本申請課題の共同研究者である慈恵医大の岩瀬忠行氏は、ヒトの腸内に生息するEnterococcus gallinarum がATPを分泌することを発見した。
理化学研究所の研究
Omen(1970)は腸内細菌に着目し、分子状窒素を固定する腸内細菌の存在を示し、パプアニューギニア高地人の腸内から窒素固定能を有する腸内細菌(Klebsiella aerogenes)を発見し、これが低タンパク栄養におけるパプアニューギニア高地人の窒素源確保に重要な役割を演じていることを示唆した。
おそらく、パプアニューギニア高地人の腸内では尿素分解細菌やアンモニア利用細菌により、アミノ酸の合成がなされ、これが永年の低タンパクへの適応として促進されているものと思われる。
近い将来、タンパク資源の枯渇、人口の増加、環境破壊など人類が直面する問題は多い。そのような中で低タンパク栄養の限界ともいえるパプアニューギニア高地人から窒素源の有効利用について教えられることは多いように思われる。
(抜粋ここまで)
これは、とてつもなくすごいことですね! 最後の文章にもありますが、これがもし人類全般に適用されることができたら、人間社会の営みそのものが根本から変わってしまいます。空気の約80%が、生命にとっていちばん大事なたんぱく質の材料に使えるわけですからね。何とも夢のある話です。もしもそうなったら、「え? なんでそんなに食事するの? 時間とお金の無駄でしょ」なんていう会話をしているのかもしれません。
人間(生物)は環境に適応していけるのですね。パプアニューギニア人のような環境で長年生きていると、何とか生命を維持するために、そういう仕組みが備わるのでしょう。考えてみれば、牛乳の乳糖を分解する酵素も北欧の一部の人だけが持つものですし、海苔を分解する酵素を作る腸内細菌も日本人だけが持っていて、外国人は海苔を消化できません。(焼き海苔はまだできるようです。) そう考えると、パプアニューギニア人が持つタンパク質合成能を他の人たちも持つことは、長い時間をかけるか、科学技術の発達で、実現可能なようにも思えます。これからの人類の一大テーマの一つだろうと思います。
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